福岡高等裁判所 昭和26年(う)3022号 判決
原判決は、被告人が昭和二十五年八月六日午后一〇時三〇分頃熊本市花畑町において法令に定められた運転の資格を持たないで熊第九九七号普通自動車を操縦した事実を認定しながら被告人の右行為は緊急避難に該当するもので罪とならないとし、その理由の前段において、同日午后八時頃当夜の宿直員木村泰典(熊本県中央保健所に勤務する被告人の同僚で当夜被告人も宿直員であつた)が心気昂進による胸痛で苦しみ出し、折柄宿直医が不在であつた上、市保健所等にも連絡がとれず、電話をかけても医者は来ないし、雇運転手も不在で右木村の病状に対し冷手拭で患部を冷やす以外、処置をなし得ない不安に駆られるまま、同人の生命、身体に体する眼前の危急を避けるため、運転資格を持たないのに、木村のかかりつけの病院に赴くべく、前記自動車に同人を乗せて運転したことを挙げている。そして右事実関係は原判決引用の各証拠によつてこれを認めることができるのであるが、右証拠によつて明らかなように、当夜前記木村の発病の際には被告人等の同僚である上野蘇問がその場に来合せていたのであるから前記事実関係の下において被告人としては本件のような無免許運転の方法をとらなくても、右上野を最寄の医者の許に走らせるとか、或は市内のタクシーを呼ばせる等の措置を講じ得た筈であると思われるのであつて、本件無免許運転のみが前記木村の危難を避ける唯一の手段であつたとは認め難く、むしろ被告人としては、偶々自己に自動車運転の経験あることによつて可能な無免許運転の途を安易に選んだものであることが窺われるのである。要するに原判決は刑法第三十七条所定の緊急避難の成立要件である「已むことを得ざるに出でたる行為」に関する解釈を誤つたものという外なく右誤が判決に影響を及ぼすことは明らかである。